量子の謎
双子の光子が、逆方向に宇宙に旅立った後、片方の光子を測定すると、もう片方の銀河の彼方にある光子の状態が、瞬時に遠隔作用で決定される。
これは、現在、量子情報処理、量子コンピュータなどと関係したホットな話題である。しかし、このような遠隔作用は本当に存在するのでしょうか?
この他にも、20世紀に完成した量子論には、いくつかのミレニアム難問が残されています。たとえば、波動が無限に広がるというのに、観測すると瞬時に収束する問題。シュレディンガーの猫の問題などです。
量子の謎にせまる研究を行っております。
1個の光子が1つの銀河の星の上で発生し、その光が宇宙空間をたびして我々の目の網膜分子と衝突したとします。そのとき、光子は、小石のように、1つの経路を進んできたのでしょうか。 有名な2重スリット実験では、1光子は、空間的な広がりを持っているようにおもえます。 そこで、コペンハーゲン解釈では、1光子は、観測前は、空間的なひろがりを持ち、観測すると一瞬の内に1点に波動が収縮すると解釈します。
図のように、2個の同種類の量子(2光子か2電子など)A,Bが左から飛んできて、中心で衝突し相互作用をして、右に飛び去ったとしましょう。
ここで、右上がQ1,右下がQ2となずけます。これを粒子としてみれば、Q1,Q2は、AかBであり、Aを追跡できれば、Q1かQ2に行くことがわかります。所が、粒子でなく波動だとみれば、2つの波動は中心で重ね合わさったために(エンタングル状態)、Q1,Q2は、どちらがAかBかを指定できなくなります。ここで、最初、A,Bは、ある性質をもっており、その性質(スピンと呼ぶ)が、Aは、+1、Bは、−1だとしましょう。A,B全体では、0であり、これは衝突前後でかわらない保存数です。
全体で0で衝突に関係なく一定なので、1方が+1なら、他方は、−1です。コペンハーゲン解釈では、一方を「測定」しないかぎり、他方は決まらず、一方を測定して、+1なら、一瞬で他方は、−1になるというのです。これが常識に反するのは、Q1,Q2の粒子を反対方向に放出して、銀河の彼方に遠ざかった時、Q1を測定すると、即座に銀河の彼方のQ2のスピンが決定されるというのです。EPR(アインシュタイン、ポドロフスキー、ローゼン)* はこれに異議をとなえ、量子論は不完全だと主張しました。当然、衝突後直後から、づっとスピンの性質は決まっており、ただ、銀河の彼方に離れたとき、測定しただけで、最初から決まっていたという隠れた変数理論もありました。1950年代まで、この問題は哲学的問題と考えられておりましたが、ベル(J.S.Bell 1964)が、ベルの不等式を発見し、その後の実験で、隠れた変数は存在しないということが実験で証明されたことになっております。
しかし、これは、まことに不可解なことです。量子論は、実験結果を導出するたんなる、しかもかなり強力な数学的方法でありますから、どこかに、より自然な理論があるものと思われます。
図の説明
Laser Diode (405nm)のレーザ光が、Down Conversion Crystal (非線形結晶BBO)に入射すると、その非線形の効果により、2つの双子の光子が同時に発生します。これらの光子の波長は、405nmの倍の810nmになります。この光子対は、量子もつれあい状態にあり、一方の性質が決定されれば、他方の性質も”同時”に決定されるといわれております。ここでは、1つの光電子増倍管で2つの光子を計測しております。一方の光子は集光されて、光ファイバーに入射され、約30nsecほど遅らされて、光電子増倍管に入射します。光電子増倍管の時間分解能は約10nsec以上あるため、光子ペアの信号は、2つのパルスとなり分離されます。そして、回路により、2つのパルスが発生しているか調べることで、2光子発生の実験(アインシュタインーポドロフスキー,ローゼンのパラドックス)の検証が可能です。価格はおおよそ50万円におさえられるため簡単な実験が可能です。
* EPR = アインシュタイン・ポドロフスキー・ローゼンの論文(Phys.Rev.47(1935)777)
数ある実験では、2光子は、同時にビームスプリッターに到達し重なりあっていた。古典的には、重なりあうことで効果が生まれていると思うかもしれないが、2つの独立な光子の波動が時空間的に重ならなくても、それらの経路が区別できない場合は、干渉が発生する
(図は簡略化してあります)
非線形結晶にレーザを照射して発生した2光子は、ビームスプリッタで時空間的に重ならないのに、下の図のように2つの経路を区別できない場合は、干渉効果が発生する。量子論では、どちらの経路を通過したか不明な場合は、その経路で決まる複素数の和をとり、その絶対値が確率となるというフォーマリズムにより矛盾なく説明されるが、それは1つの実験について、ある数学的処理をした値が、実験結果だという1対1対応にすぎない。実在として何が起こっているかを導入する必要があるだろう。
T.B.Pittman, ,,Y.H.Shih Phys.Rev.Lett.77, 1917 (1996)